「言い方に気をつけているのに、なぜか伝わらない」
そんな声を、研修後に現場から聞いたことはありませんか。
アサーティブ・コミュニケーションは多くの企業で取り入れられていますが、実際に“使われ続けている”ケースはそう多くありません。理解して終わる。現場では元に戻る。このギャップに悩む人事担当者は少なくないはずです。
この記事では、表面的なテクニックではなく、なぜ機能しないのか、どうすれば現場で使われるのか。実務で使える視点で整理していきます。
アサーティブ・コミュニケーションとは何か
アサーティブ・コミュニケーションとは、自分の意見を伝えながら、同時に相手の立場も尊重する伝え方のことです。
ここだけ聞くと、当たり前に感じるかもしれません。ですが、現場でズレが起きるのは、この「当たり前」の解釈が人によって違うからです。
例えば、強く言えば「押しつけ」と受け取られる。遠慮すれば「何も言っていない」のと同じになる。この中間を取るのがアサーティブですが、実際には感覚任せになりやすい領域でもあります。
アグレッシブ/ノンアサーティブとの違い
整理すると、コミュニケーションの型は大きく3つに分かれます。
●アグレッシブ(攻撃型)
自分の意見を優先し、相手への配慮が弱い
●ノンアサーティブ(非主張型)
相手を優先しすぎて、自分の意見が伝わらない
●アサーティブ(適切主張型)
自分と相手、両方を尊重して伝える
理屈としてはシンプルですが、現場では「強く言えないから黙る」「伝えたつもりだが相手に伝わっていない」といったズレが頻発します。
よくある誤解
ここで一つ整理しておきたいのは、アサーティブは「優しく伝える技術」ではないという点です。
むしろ逆で、
必要なことはきちんと伝える前提があります。
・相手を傷つけないようにぼかす
・角が立たないように曖昧にする
こうした配慮は一見良さそうに見えますが、結果として意図が伝わらず、後から問題が大きくなることも多い。
つまりアサーティブは、「言わない配慮」ではなく「伝え方を設計する考え方」と捉えたほうが現場では機能しやすいです。
なぜ今、企業にアサーティブが必要なのか
ここ数年で、企業のコミュニケーション環境は大きく変わりました。
その変化が、アサーティブの必要性を一気に引き上げています。
言えない組織が増えている
ハラスメントへの意識が高まったことで、
「何か言うと問題になるのではないか」と感じる場面が増えています。
結果として、指摘が減る。フィードバックが弱くなる。
一見すると穏やかですが、実際には課題が放置されやすい状態です。
これは、いわゆる 心理的安全性 が低い状態とも言えます。
安心して発言できない環境では、組織としての意思決定や改善のスピードも落ちていきます。
若手の離職理由にも直結する
厚生労働省の雇用動向調査でも、人間関係は離職理由の上位に入り続けています。
ただし、ここでいう人間関係は「仲が悪い」という単純な話ではありません。
・本音を言えない
・フィードバックが曖昧
・評価基準が分からない
こうしたコミュニケーションの質が影響しているケースが多いです。
表面的な関係性よりも、「どう伝え合っているか」のほうが離職に効いている場面は多いと感じます。
リモート環境でズレが拡大する
対面であれば空気感で補えた部分が、オンラインでは補えません。
その結果、意図のズレがそのまま残ります。
・きつく聞こえる
・意図が弱く伝わる
・誤解が解消されない
こうした問題が積み重なると、チームの生産性に影響します。
だからこそ、感覚ではなく「伝え方を一定の基準で揃える」必要が出てきています。
現場で機能しない3つの原因
アサーティブは多くの企業が取り入れていますが、
「研修はやったが変わらない」という声が多いのも事実です。
その原因は、スキルそのものではなく、導入の仕方にあります。
① スキルとして教えて終わる
よくあるのが、1回の研修で終わるケースです。
その場では理解できる。ロールプレイもできる。
ですが、実務に戻ると元に戻る。
理由はシンプルで、
日常業務の中で使う設計になっていないからです。
例えば、
・どの場面で使うのか
・使えたかどうかをどう判断するのか
ここが曖昧なままだと、スキルは定着しません。
② 対象が偏っている
上司だけに研修を行う。
あるいは若手だけに行う。
こうした導入も多いですが、これだと噛み合いません。
上司が変わっても部下が変わらなければズレる。
逆も同じです。
コミュニケーションは相互作用なので、
片側だけ変えても現場では違和感が残ります。
③ 評価と連動していない
・どれだけアサーティブに伝えても評価に関係ない
・結果だけ見られる
この状態だと、行動は変わりません。
人は評価される方向に行動を寄せます。
逆に言えば、評価に入っていないものは優先順位が下がる。
その結果、
「知っているけど使わないスキル」になります。
アサーティブを実務で使える形に分解する
ここからは、現場でそのまま使えるレベルまで落とします。
ポイントは「センス」ではなく「型」で再現できることです。
伝え方の4ステップ
アサーティブな伝え方は、次の4つに分解するとブレにくくなります。
① 事実
② 感情
③ 理由
④ 提案
順番も重要です。いきなり意見を言うと、相手は反発しやすい。
まずは事実から入る。それだけで受け取り方は変わります。
NG例とOK例(上司→部下)
NG例
「なんでこんなミスしたの?」
→ 責められていると感じやすく、防御的になる
OK例
「この資料、数値にズレがあったね(事実)
少し気になっていて(感情)
このままだとクライアントに誤解される可能性がある(理由)
一緒に確認して修正しようか(提案)」
トーンは穏やかでも、言うべきことは言っています。
これがアサーティブの本質です。
NG例とOK例(部下→上司)
NG例
「無理です」
→ 情報不足で判断される
OK例
「今のタスク状況だと、今日中の対応は難しいです(事実)
正直、品質が下がるのが不安で(感情)
中途半端な状態で出すのは避けたいです(理由)
明日の午前中までいただければ、精度を上げて提出できます(提案)」
“断る”場面でも使えるのが重要です。
よくある実務シーン
アサーティブが効く場面は、だいたい決まっています。
●指摘する(ミス・改善点)
●依頼する(追加タスク・調整)
●断る(キャパオーバー・優先順位)
逆に言うと、この3つに使えれば、現場のコミュニケーションはかなり変わります。
ここまで具体化しないと、「分かったけど使えない」で終わります。
研修で止まる企業は、だいたいこの一歩手前で止まっています。
組織に定着させるための導入ステップ
ここからは、人事・研修担当の視点です。
どう設計すれば「一時的なスキル」で終わらないか。
ポイントは、教育ではなく“運用”として組み込むことです。
Step1:現場の課題を言語化する
いきなり研修に入ると失敗します。
まずは、今どんなコミュニケーション課題があるのか。
例えば
・指摘ができない
・遠回しすぎて伝わらない
・上司と部下で認識がズレる
このあたりを具体的に洗い出す。
ここを曖昧にしたまま進めると、研修内容が現場とズレます。
Step2:共通言語を定義する
「アサーティブに伝える」と言っても、人によって解釈が違います。
そこで、
・どういう状態ができている状態か
・どういう言い方がNGか
これを組織として揃える必要があります。
ここが揃うと、フィードバックが機能し始めます。
Step3:ロールプレイ+フィードバック
知識だけでは変わりません。
実際にやってみる → 指摘される → 修正する
このループが必要です。
特に重要なのは、
「できている/できていない」の判断基準を明確にすること。
曖昧なフィードバックだと、成長しません。
Step4:上司から実践する
ここを外すと、ほぼ定着しません。
部下だけが変わっても、上司が変わらなければ現場は元に戻ります。
むしろ、違和感が強くなります。
現実的には、
「上司が変わる → 部下が合わせる」
この順番でしか組織は動きません。
導入企業のケース
ここでは、実際に起きやすい変化をイメージできるように整理します。
ケース①:指摘できない組織
導入前
会議で意見が出ない。
違和感があっても誰も言わない。
導入後
事実ベースで話す文化が浸透し、
「それ、少し気になります」と言える空気が生まれる
結果として、意思決定のスピードが上がる。
ケース②:若手の離職が続く組織
導入前
上司の意図が分からない
評価の理由が見えない
導入後
フィードバックが具体化される
「何をどう改善すればいいか」が明確になる
結果として、納得感が上がり、離職率が下がる。
※ただし、離職率の改善は複合要因のため、
コミュニケーションだけで説明できるものではありません。
あくまで一要因としての変化です。
ケース③:営業部門での変化
導入前
顧客に対して言いづらいことを避ける
結果として、後からトラブルになる
導入後
初期段階で期待値を調整できるようになる
「ここは難しいですが、この形なら実現できます」と伝えられる
結果として、クレームが減少し、関係性が安定する。
研修で終わらせないために必要な設計とは
ここまで読んでいただくと分かる通り、
アサーティブは“知識”として理解しても意味がありません。
現場で使われて初めて価値が出ます。
そして、多くの企業がここで止まります。
単発研修が機能しない理由
よくある流れです。
●研修で理解する
●その場ではできる
●現場に戻る
●元に戻る
この繰り返しです。
なぜこうなるのか。
理由はシンプルで、「使う前提で設計されていない」からです。
日常業務の中で
・どの場面で使うのか
・誰がフィードバックするのか
・どう評価するのか
ここが決まっていないと、スキルは定着しません。
継続設計がないと形だけになる
アサーティブは習慣です。
一度学べば終わるものではありません。
例えば、導入がうまくいく企業は次のような設計をしています。
●上司が日常的にフィードバックする
●1on1で使えているか確認する
●会議での発言を振り返る
こうした“使う場面”を意図的に作っています。
逆に言えば、ここがないと自然には広がりません。
階層ごとに設計しないと崩れる
もう一つ重要なのが、対象の分け方です。
・管理職
・中堅社員
・若手社員
それぞれで役割が違います。
例えば管理職は
「フィードバックする側」としてのアサーティブが必要ですし、
若手は
「意見を伝える側」としての使い方が重要になります。
ここを同じ内容で一括にすると、現場でズレます。
結果として「分かったけど使えない」状態になります。
ここまでが、多くの企業がつまずくポイントです。
逆に言えば、ここを押さえれば定着に近づきます。
アサーティブを現場で機能させたい企業へ
ここまで読んで、
「内容は理解しているが、現場で使われていない」
と感じた方も多いかもしれません。
実際、アサーティブは単体スキルとして導入すると機能しづらく、
現場の役割や評価と合わせて設計する必要があります。
・研修は実施しているが、行動が変わらない
・上司と部下でコミュニケーションの質に差がある
・フィードバックが形だけになっている
こうした状態であれば、一度立ち止まって見直したほうがいいタイミングです。
階層ごとに役割を整理し、現場で使われる状態まで支援する研修設計については、以下で詳しく紹介されています。
👉 https://vc-corp.net/develop4
「理解しているのに使われない」状態から抜けたい場合は、
ここが分岐点になります。








