採用に成功したと思ったのに、すぐに辞めてしまう──。中小企業で繰り返される“採用の空振り”の原因は、人材の質ではなく「戦略人事」の不在にあります。本記事では、その構造的な問題と解決のヒントを解説します。
繰り返される“採用の空振り”──よくある中小企業の失敗例
「良さそうな人を採ったはずなのに、なぜか定着しない」
「思ったほど戦力にならない」
採用にかけた時間もコストも無駄になったように感じる。
そんな“採用の空振り”は、多くの中小企業で繰り返されている典型的な失敗です。その背景には、採用基準の曖昧さや、受け入れ体制の不備など、構造的な問題が潜んでいます。
ここでは、特に多い3つの失敗パターンをご紹介します。
スキルより“雰囲気フィット”で採用してしまう
中小企業では「一緒にやっていけそうか」「うちのカルチャーに合うか」といった“雰囲気”を重視して採用することが少なくありません。もちろん人間関係は重要ですが、それがスキルや役割との適合度を上回ってしまうと、入社後に「実務が任せられない」「思ったほど動けない」というミスマッチが生まれます。
特に、即戦力を求めていたはずが、入ってみると教育や手厚いフォローが必要な人材だった-というケースは、採用要件が曖昧なまま進んだ典型例です。
期待と実態のギャップで早期離職につながる
採用面談で語った期待や将来像と、入社後の業務や待遇が乖離していると、本人のモチベーションは大きく低下します。「話が違う」と感じさせてしまうのは、会社側の意図とは関係なく、“情報の非対称性”によるものが多く、採用活動における構造的な課題です。
たとえば、「将来的にはマネジメントにも関われる」と伝えていたのに、実際には現場のルーティン業務ばかりが続いたり、裁量を期待していたのに細かく指示される。こうしたギャップは、優秀な人ほど早く見切りをつけ、離職につながります。
ポジションが明確でなく、入社後に迷子になる
「何を任せるか」がはっきりしていないまま採用してしまうと、入社後の動きが曖昧になりがちです。
上司も周囲も「この人が何をすべきか」が共有できておらず、業務の割り振りが曖昧になり、本人も「自分の役割は何なのか?」と迷いながら仕事をする状態に。
結果として、評価も育成も難しくなり、「成果を出していない」と判断されてしまうか、「成長実感がない」と本人から辞めていくケースが増えていきます。これは“人材の質”ではなく、“受け入れ設計のミス”による失敗です。
こうした失敗を繰り返さないためには、「誰を」「なぜ」「何のために」採用するのかを明確にし、採用前から定着・活躍までを見据えた“戦略人事”の視点が不可欠です。
「採用→定着→活躍」の断絶はなぜ起こるのか
「いい人を採ったはずなのに、なぜか定着しない」
「定着しても、思うように活躍してくれない」
そんな声が経営現場から上がることは少なくありません。
この“採用→定着→活躍”のプロセスが分断されている背景には、人材を「戦略的に育てる」という視点が欠けているケースが多く見られます。
「誰をどう育てるか」の設計がない
採用はできても、「この人をどのポジションでどう育てていくか」という設計がなければ、成長支援も評価もあいまいになります。多くの中小企業では、育成が“現場任せ”や“本人任せ”になっており、組織としての育成方針が言語化されていません。
たとえば:
- 成長ステップが見えず、本人も目指す先が不明
- 担当する業務が場当たり的で、経験値の蓄積につながらない
- 幹部候補として採用したのに、育成施策がない
こうした状況では、せっかく採用した人材も埋もれてしまいます。
オンボーディングと評価制度が機能していない
新たに採用した人材が組織に馴染み、早期に活躍するためには、「オンボーディング(初期立ち上げ支援)」が不可欠です。しかし現場が忙しく、任せっぱなしになっていると、以下のような事態が起こります。
- 誰に相談すればいいかがわからない
- 社内用語や商習慣になじめないまま業務が進む
- 評価の基準があいまいで、フィードバックが得られない
また、評価制度があっても形骸化している企業では、「頑張っても報われない」「なぜ評価されたかわからない」という不満が定着率を下げてしまいます。
マネージャー層が“育成されていない”という盲点
「育成がうまくいかない」と嘆く企業に共通するのが、マネージャー自身が“育成のやり方”を学んでいないという点です。
現場で成果を出してきたプレイヤーがそのまま管理職になり、「自分のやり方」を部下に求めてしまうことで、育成どころか摩擦を生んでしまうケースもあります。育成は、経験則だけではなくスキルと仕組みで支えるべき業務です。
- どのように目標設定し
- どのように進捗を管理し
- どのようにフィードバックするか
これらを教えられていないマネージャーが現場に立っていては、組織の人材力はなかなか底上げされません。
このように、“採用の先”を支える育成設計と仕組みがなければ、どれだけ優秀な人材を採用しても、活躍にはつながりません。
キーマン不在──“戦略人事”がいないという構造課題
採用した人材が活躍せずに辞めてしまう。育成が場当たり的になり、組織が思うように伸びない
このような課題の根本にあるのが、「戦略人事」という機能の不在です。中小企業では「人事=採用や労務」と捉えられがちですが、成長企業にとって本当に必要なのは、“事業を伸ばすための人事戦略”を描き、仕組みに落とし込める人材です。
人事=採用と労務の延長という誤解
多くの中小企業では、人事の役割を「求人媒体の選定」「面接の調整」「入退社手続き」といった“採用と労務のオペレーション”と捉えているケースが多くあります。
確かに、日々の業務を回すうえで重要な機能ではありますが、事業の成長にはそれだけでは不十分です。本来の人事の役割は、「事業の戦略目標を、人と組織で実現すること」です。
この視点が抜け落ちると、採用も育成も“行き当たりばったり”になり、人が育たず、定着もせず、再び採用コストだけが増えていくという悪循環に陥ります。
「事業戦略 × 組織戦略」の接続役がいない
事業戦略はある。数値目標もある。しかし「その目標を、どのような人材戦略で実現するか」を描ける人が社内にいない
この“接続不在”が、多くの中小企業の成長を止めている大きな要因です。
たとえば:
- 新規事業を進めたいのに、適任者を採れていない
- 採用しても組織にフィットせず、早期離職が続いている
- 幹部が育たず、結局すべての判断がトップに集中している
これらは単なる“現場の問題”ではなく、「事業計画と組織設計が結びついていない」ことによる構造的な問題です。本来であればCHRO(最高人事責任者)のような“戦略人事のキーマン”が、これらの分断をつなぐべきなのです。
採用後の仕組みづくりが個人任せになっている
採用した後の育成・評価・定着支援などの仕組みが整っておらず、結局「配属された現場任せ」「直属の上司任せ」になってしまっている組織も少なくありません。
その結果、
- オンボーディングがあいまいで、立ち上がりが遅れる
- 評価やキャリアの見通しが持てず、モチベーションが続かない
- 上司によって育成やマネジメントの質に大きなばらつきがある
といった問題が発生しやすくなります。
本来、これらを設計・整備すべきなのが「戦略人事」の仕事です。現場の属人的な頑張りに頼るのではなく、会社全体として仕組み化することで、再現性のある人材戦略を実現できます。
「戦略人事がいない」ということは、言い換えれば「人を軸にした成長戦略がない」ということです。
その役割、CHROが担うべきだった
「優秀な人材を採っても活躍しない」「幹部が育たない」「採用してもすぐに辞める」
こうした“人にまつわる経営課題”の本質は、「戦略人事の不在」にあります。
本来、その課題解決の舵を取るべきは、CHRO(Chief Human Resource Officer/最高人事責任者)です。
CHROとは、単なる採用責任者でも、人事部長の上位互換でもありません。「人」を経営の観点からとらえ、事業成長に必要な人材戦略を描く、経営チームの一員です。
「人」のポートフォリオを設計できる経営人材
CHROの最大の特徴は、「人材」を“経営資源”として俯瞰できる視点を持っていることです。
- どのポジションに、どんな人材が、いつ必要か
- 社内にいる人材をどう活かし、どう伸ばし、どこを補完すべきか
- 外部採用と内部育成のバランスはどうあるべきか
これらを“ポジション単位”ではなく、“事業全体を動かすポートフォリオ”として設計できる人材こそ、CHROです。言い換えれば、CHROとは「人の最適配置と投資判断を担う、人材戦略のCFO」のような存在とも言えるでしょう。
経営・事業戦略と連動した“人事戦略”の要
事業計画や新規事業の立ち上げ、第二創業、IPO準備-
こうした経営の重要局面では、必ず「人材戦略との連動」が必要です。しかし、多くの中小企業では、「事業は経営が決めて、人は人事が考える」という“縦割り構造”が残っています。
CHROは、その分断をつなぐキーパーソンです。
- 「この事業戦略に必要な人材像は?」
- 「組織拡大に合わせて、どの階層にどんな役割を用意するべきか?」
- 「カルチャーを維持しつつ、どう採用を拡大するか?」
こうした問いに答え、経営と人事を結びつけるのがCHROの存在意義です。
※CHROの役割定義と導入メリットはこちらで詳しく解説
CHROの基本的な役割・スキル要件・導入効果などは、上記記事で詳しく解説しています。
「戦略人事が必要とは思っているが、CHROまでは現実的でない」と考えている方にも、パートタイムや業務委託での導入事例を交えて紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
では中小企業にCHROは必要なのか?
「CHRO=大企業の話」「数十人規模の会社にはまだ早い」-
そう思われるかもしれません。しかし実は、少人数の中小企業こそCHRO的な視点が必要です。なぜなら、人数が少ないほど、一人の配置やミスマッチが業績や組織全体に直結するからです。
少人数だからこそ、設計ミスの影響が大きい
社員数10名、20名という規模では、「誰を採用するか」「どこに配置するか」の一手が、会社の成長スピードを大きく左右します。
たとえば:
- 幹部候補として採った人が馴染めず早期離職
- 事業責任者が現場に入りすぎて全体戦略が停滞
- 新規事業に適任者がいないまま立ち上げ失敗
こうした事態の多くは、「ポジション設計」「人材要件」「育成戦略」といった人の構造設計が曖昧なまま走り出していることに起因します。つまり、“人”に関する経営判断の精度を上げる役割として、CHROの視点は決して他人事ではないのです。
“成長の壁”を超えるには人事が経営に関与すべき
事業が軌道に乗りはじめると、次に訪れるのが「成長の壁」です。
- 拡大に合わせて人を増やしたら、組織がバラバラになった
- 役割が曖昧なまま人を昇格させて、チームが混乱
- 採用も育成も“やっているのに”人が育たない
これは、“採用・労務”と“戦略・育成”が分離されている状態で起こる典型的な現象です。
この壁を超えるには、人事が「経営の一部」として組織づくりを設計・推進する役割を担う必要があります。まさに、CHROの果たすべき領域です。
専任でなくても、「戦略人事の視点」は持てる
もちろん、すべての中小企業がCHROを専任で雇用する必要はありません。重要なのは、「誰か一人が、人材と組織の戦略設計を担う役割を持つこと」です。
たとえば:
- 経営陣の一人がCHROの視点を兼ねる
- パートタイムや顧問型でCHRO経験者を迎える
- 外部エージェントと連携して戦略を設計する
こうした方法でも、“戦略人事”という思考回路を経営に組み込むことは可能です。
むしろ、変化の速い時代とリソースが限られる中小企業だからこそ、柔軟で軽やかな“CHRO的思考”の導入が武器になると言えるでしょう。
まとめ:人事は「管理」ではなく「経営」の仕事
「いい人を採っても辞める」「育たず活躍しない」-その背景には、“戦略人事”の不在があります。
人事を採用・労務の延長と捉えている限り、「採用→定着→活躍」はつながりません。本当に必要なのは、事業戦略と連動して人と組織を設計する視点です。中小企業こそ、少数精鋭の組織だからこそ、一人ひとりの配置・育成が経営に直結します。専任のCHROを置かなくても、まずは経営陣が戦略人事の視点を持つこと。それが、採用の失敗を防ぎ、組織を強くする第一歩です。
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